失業保険を受給しながら次を探していて、3ヶ月で再就職先が決まった──このときに見落とされやすいのが再就職手当です。
受け取らずに済んだ残り給付の 最大70%が一時金として一括で出ます。金額にして数十万円規模ですが、再就職の安堵で申請自体を忘れてしまう人が一定数います。要件と期限を先に押さえておくのが安全です。
なぜ「70%」と「60%」の2段階なのか
支給率の境目は、所定給付日数の3分の2と3分の1です。
- 残日数が所定給付日数の 3分の2以上 → 給付率 70%
- 残日数が 3分の1以上3分の2未満 → 給付率 60%
- 残日数が 3分の1未満 → 支給対象外
厚労省の説明では「早期再就職のインセンティブ」が制度の狙いとされています。給付日数を残して再就職してくれれば、その分の基本手当を国は払わずに済む。本人も早く稼ぎ始められる。両者にとって合理的、という設計です。
要するに「再就職した人へのご褒美」というより、「早く決めた人ほどトクする仕組み」です。70%という高めの支給率は、その意図そのままを反映しています。
60日以内に再就職した場合、いくら残るのか
具体例で試算します。35歳・自己都合・5年勤続・月収30万円のAさんを想定します。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 賃金日額 | 10,000円(30万円 × 6 ÷ 180) |
| 基本手当日額 | 6,750円(年齢区分の給付率を適用後) |
| 所定給付日数 | 90日 |
| 受給開始日 | 退職から約2ヶ月後(待期7日 + 給付制限1ヶ月 + 認定日) |
このAさんが、受給開始から30日経った時点(残日数60日)で再就職を決めたとします。残り60日は所定給付日数90日の3分の2を超えていますので、給付率は70%が適用されます。
計算式は次のとおりです。
再就職手当 = 6,750円 × 60日 × 70% = 283,500円
既に受給していた30日分(202,500円)と合わせて、Aさんの受給合計は486,000円となります。一方、再就職手当を受給せず全期間(90日)の基本手当を受給した場合は、6,750円 × 90日 = 607,500円。差額は約12万円です。
「全期間受給したほうが多い」と見えるかもしれませんが、見落としやすいのが再就職翌月から給与が入る点です。Aさんが月30万円の仕事に就けば3ヶ月で90万円。失業保険だけで暮らした3ヶ月の60万円との差は30万円。これに一時金28万円を足すと、早期再就職のほうが50万円以上トクになる計算です。
取りこぼしポイント①「採用日と待期7日のずれ」
最も多い失敗例から紹介します。
求職申込み(受給資格決定)をしてからの最初の7日間は「待期」と呼ばれる期間で、この間は失業の状態にあることが必要となります。待期が満了する前に就職した場合、再就職手当の支給対象にはなりません。
例えば、6月15日に求職申込みをされた場合、6月16日から6月22日までが待期期間です。6月22日以前に採用日が設定されてしまうと、原則として支給対象外となります。
「6月22日入社」と「6月23日入社」で、わずか1日の差により一時金約28万円の受給可否が変わる──このような事例は珍しくありません。内定先と入社日を相談する余地がある場合は、待期7日が満了した翌日以降を入社日として提案することを推奨します。
取りこぼしポイント②「給付制限期間中の紹介ルート」
自己都合退職には1ヶ月の給付制限があります(2025年4月の改正で3ヶ月から1ヶ月に短縮されました)。この期間中も再就職活動を行うことは可能で、就職が決まれば再就職手当の対象となります。ただし、この期間に固有の条件が一つ加わります。
求職申込みから 待期満了後1ヶ月の期間内 は、ハローワーク、または許可・届出のある職業紹介事業者の紹介によって就職したこと
具体的には、給付制限期間中の最初の1ヶ月で内定する場合、ハローワーク経由または許可業者経由でなければ対象外となります。知人からの紹介や、ご自身で求人サイト経由で応募して直接内定を得られた場合は、この期間中であれば再就職手当の対象になりません。
教育訓練給付の対象講座を受講して給付制限が解除された場合も、このハローワーク経由要件は別途残ります。注意が必要です。
取りこぼしポイント③「1年超の雇用が確実か」
要件の一つに「1年を超えて勤務することが確実であること」があります。
判定は雇用契約書をもとに行われます。
- 期間の定めなし(正社員等)→ 原則として要件充足
- 1年以上の有期契約で更新あり → 原則として要件充足
- 1年以下の有期契約 → 原則として対象外(更新が確実とハローワークが認めた場合は例外あり)
- 試用期間で解雇の可能性が高い → ケースごとの判断
派遣社員のケースは特に判断が難しく、契約期間と更新条件によっては「1年超の雇用が確実」とは認められない場合があります。雇用契約書を持参してハローワークの窓口で確認するのが確実です。
取りこぼしポイント④「事業主との関係」
「離職前の事業主に再び就職した場合」「資本・人事・取引関係で密接な事業主に就職した場合」は対象外となります。
これは脱法的な利用を防ぐための規定です。離職前の事業主のグループ会社や子会社に再就職した場合、該当する可能性があります。グループ会社の多い業界(商社・出版・メディア等)の方は特に注意が必要です。雇用契約書の事業主名と、過去の職歴の事業主名を見比べておくとよいでしょう。
取りこぼしポイント⑤「内定が受給資格決定前かどうか」
こちらも見落とされやすいポイントです。
再就職手当は、「受給資格決定(求職申込み)前から内定していた事業主」への就職には支給されません。
具体例を示します。
- 退職前から再就職先が決まっており、退職後にハローワークで求職申込みをした場合 → 対象外
- 退職後にハローワークで求職申込み → その後の求職活動で内定を得た場合 → 対象
「先にハローワークで求職申込みをしてから本格的に求職活動を始める」場合と、「退職前から内定がある状態で手続きする」場合では、受給可否が逆転します。
取りこぼしポイント⑥「申請期限:1ヶ月」
最後は、最も単純な失敗です。
申請期限は、就職した日の翌日から1ヶ月以内です。
入社後に業務に慣れることで精一杯となり、気がついた頃には2ヶ月が経過していた──このような事例があります。期限を過ぎると一切支給されません。
入社日が決まりましたら、その日のうちにスマートフォンのカレンダーで「+25日後」のリマインダーを設定しておくことを推奨します。ハローワークの窓口は混雑することがあり、必要書類を揃える時間も必要です。25日目あたりから動き始めるのがちょうどよいタイミングです。
申請に必要な書類は次のとおりです。
- 再就職手当支給申請書(ハローワークで配布、または公式サイトからダウンロード可能)
- 採用証明書(再就職先に記入を依頼。ハローワーク様式)
- 受給資格者証(ハローワークが交付する書面)
- 雇用契約書のコピー
採用証明書は再就職先の人事部門に依頼することになりますので、入社直後の顔合わせの際にあわせて依頼しておくと、後々の手続きが円滑に進みます。
6ヶ月勤務後に追加で受給できる「就業促進定着手当」
再就職手当を受給した方が、再就職先で6ヶ月以上勤務し、かつ 6ヶ月の賃金が離職前より低下している場合、追加で 就業促進定着手当 を受給できます。
計算式はやや複雑ですが、要点は「賃金が下がった分の補填を、最大で残り給付日数の40%(再就職手当70%を受給した場合)まで支給する」という制度です。
転職に伴う年収低下は珍しいことではありませんので、再就職手当を受給された方は、半年経過後に 「賃金台帳」「出勤簿」「労働者名簿」のコピー を再就職先から取り寄せ、ハローワークに持参されると、追加で受給できる可能性があります。
あなたの場合、いくらになるか
再就職手当の計算は、年齢・賃金・退職理由・被保険者期間によって大きく変わります。具体的な金額を確認するには、シミュレーターでの試算が早道です。
出典・参考
最終更新: 2026年5月5日 改訂履歴: 2026/05/05 — 令和7年8月賃金日額改定を反映 / 2026/04/21 — 初版公開