2026/05/12 更新

年金と失業保険を同時にもらう合法的な方法 — 65歳の壁と回避テクニック

65歳未満では失業保険と特別支給の老齢厚生年金は同時受給できず、基本手当を選ぶと年金が停止します。65歳以降は高年齢求職者給付金と老齢年金の併給が可能。退職時期の選択で総受給額が大きく変わるため、年金額を含めた損得計算を整理しました。

「65 歳前に辞めれば失業保険、65 歳を過ぎれば一時金と年金を両取り」── 退職を控えた人の間でよく聞くフレーズですが、実際にシミュレーションしてみると、有利不利が見事にひっくり返るケースが珍しくありません。年金月額が高い人ほど、64 歳ぎりぎり退職で「基本手当をもらった気でいたら、その分だけ年金が止まっていて、結局トントンだった」という落とし穴に落ちやすいからです。

ここでは、自分の年金見込み額と基本手当の月換算をどう比べれば「64 歳まで」と「65 歳到達後」のどちらが得かが決まるのか、繰下げ・繰上げ・在職老齢年金まで含めて、計算例ベースで整理します。

なぜ 65 歳が境目になるのか

65 歳を挟んで、雇用保険の給付が「基本手当」から「高年齢求職者給付金」へと自動的に切り替わります。性質も支給形態もまったく別物です。

退職時年齢適用される雇用保険給付性質
64 歳 11 ヶ月以前基本手当(90〜240 日)月別・継続的に支給
65 歳 0 ヶ月以降高年齢求職者給付金(30 日 or 50 日)一時金で一括支給

このうち、年金との相性が大きく違うのは支給形態よりも「同時受給できるかどうか」のルールです。

基本手当の場合 — 65 歳未満で基本手当を受給すると、特別支給の老齢厚生年金は支給停止になります。具体的には求職申込みをした月の翌月から年金が止まり、基本手当の受給が終了した翌月から年金が再開します。基本手当か年金かの二者択一で、両方を月ごとに重ねて受け取ることはできません。

高年齢求職者給付金の場合 — 65 歳以降に支給される高年齢求職者給付金は、老齢年金と併給できます。年金は止まらず、給付金とは別枠でそのまま受け取れます。「給付の名前が変わっただけ」と思っていると損をする部分で、ここが 65 歳前後の損得を決定的に分けます。

計算例:64 歳 11 ヶ月退職 vs 65 歳 0 ヶ月退職

20 年勤続・月収 40 万円・基本手当日額 7,200 円・老齢厚生年金月額 18 万円の L さんを想定して、両ルートの実質手残りを比較します。

ケース A:64 歳 11 ヶ月で退職(基本手当ルート) — 基本手当は 7,200 円 × 150 日で 1,080,000 円。受給期間中はおよそ 6 ヶ月間、年金が止まるので、本来もらえたはずの 18 万円 × 6 ヶ月= 1,080,000 円分が消えます。差し引きすると 実質増額は ¥0。基本手当をフルでもらった気でいても、停止された年金とちょうど相殺してしまうという、L さんのような年金額の人が陥りやすい構図です。

ケース B:65 歳 0 ヶ月で退職(高年齢求職者給付金ルート) — 高年齢求職者給付金は 7,200 円 × 50 日で 360,000 円。年金は止まらず併給できるので、丸ごと手残りに乗ります。実質増額は約 36 万円。同じ人でも、退職を 1 ヶ月遅らせるだけで結果が大きく変わるのが分かります。

判定の目安をシンプルに書くと、こうなります。

基本手当の月換算 = 基本手当日額 × 30 日
        7,200 円 × 30 = 216,000 円/月

年金月額 = 180,000 円/月

基本手当月換算 > 年金月額 → 64 歳までの退職が有利な可能性
基本手当月換算 < 年金月額 → 65 歳以降の退職が有利な可能性

L さんは月換算 21.6 万円に対して年金 18 万円。差が小さいので結果として相殺気味ですが、年金がさらに高い人ほど 65 歳以降のほうが優位になります。詳しくは 65 歳になる前に辞めた方がいい?の記事 で扱っています。

在職老齢年金との関係

働きながら年金をもらっている人には、もうひとつ 在職老齢年金 という論点が絡んできます。会社に在籍したまま老齢厚生年金を受給する仕組みで、給与と年金の合計が令和 7 年基準で 50 万円を超えると、超過分の年金が一部支給停止になります。

退職して失業保険に切り替える場合、退職と同時に在職時の調整は解除され、年金は通常の老齢厚生年金として満額に戻ります。ただし基本手当を受給し始めると、今度は雇用保険側のルールで年金が停止する流れ。さらに再就職して給与が発生すれば、また在職老齢年金の調整が始まります。「在職時カット → 退職で復元 → 基本手当で停止 → 再就職で再びカット」という連鎖になりやすく、再就職予定がある人は年金のオン・オフを時系列でメモしておくと混乱しません。

繰下げ受給との組み合わせ

老齢年金は受給開始を後ろ倒しすると、月単位で増額されます。

繰下げ年数増額率
1 年(66 歳から受給)8.4% 増
2 年(67 歳から受給)16.8% 増
3 年(68 歳から受給)25.2% 増
5 年(70 歳から受給)42.0% 増
10 年(75 歳から受給)※ 2022 年改正84.0% 増

組み合わせの典型は、64 歳までに退職して基本手当を受け取り、その間は年金が止まっている状態を逆手に取って、65 歳到達後にそのまま繰下げ申請に乗せてしまうパターン。基本手当の受給で当面のキャッシュフローを確保しつつ、65 〜 70 歳の 5 年間を繰下げ期間としてフルに使えば、70 歳から 42% 増額された年金を生涯にわたって受け取れる形にできます。

ただし、繰下げを選ぶ前提条件として「65 歳から 70 歳までの 5 年間を、年金ゼロでも回せる家計か」を見ておく必要があります。退職金や配偶者の収入、貯蓄で 5 年間の生活費が確保できる人にとっては相性の良い戦略で、そうでない人にとっては短期の生活が苦しくなるだけのリスクのある選択になります。

繰上げ受給は注意

逆に年金を 繰上げて 60 歳から 65 歳の間に前倒し受給することも制度上は可能ですが、失業保険との組み合わせでは不利に働くケースが多いです。

繰上げ受給は月 0.4%(年 4.8%)の 生涯にわたる減額が付いてきます。そのうえで基本手当を申請すると、繰上げで減額された年金が、さらに 完全停止されます。停止期間中も増額に振り替わるわけではないので、「減らした年金が止まっている」だけの状態。これから基本手当を受給する予定があるなら、繰上げ受給は基本的に避けたほうが無難です。

退職時期の最適化フロー

実際に「自分はどっちが得か」を決めるときは、次の順序で詰めていくと迷いません。

ステップ 1 自分の年金月額を把握する — ねんきんネット(日本年金機構)にログインし、65 歳時点の見込み月額を確認します。50 代後半ならほぼ実額に近い精度で出ます。

ステップ 2 基本手当日額を算出する — 退職前 6 ヶ月の総支給額 ÷ 180 で賃金日額を出し、年齢区分の給付率を掛けて基本手当日額に換算。さらに × 30 で月換算します。賞与は賃金日額の算定に含まないので注意。

ステップ 3 月換算同士で比較する

比較推奨退職時期
基本手当月換算 > 年金月額 + 数万円64 歳 11 ヶ月退職
基本手当月換算 ≈ 年金月額どちらでも近似
基本手当月換算 < 年金月額65 歳 0 ヶ月退職

ステップ 4 給付日数も加味する — 基本手当ルートは給付日数 × 日額の総額で、65 歳ルートは高年齢求職者給付金(30 or 50 日 × 日額)に「停止されなかった 6 〜 12 ヶ月分の年金」を足した金額で比較します。月換算だけで判断せず、最終的には総受給額で照らし合わせるのが安全です。

「64 歳 11 ヶ月退職」の落とし穴

「ぎりぎり 64 歳で辞めるのが得」という議論には、現場で踏みやすい地雷がいくつかあります。

離職票の発行が間に合わない — 退職から離職票発行まで通常 2 週間 〜 1 ヶ月。会社の総務が遅いと「64 歳 11 ヶ月で退職して、65 歳到達前に求職申込みを完了する」というスケジュールが、書類の遅延だけで破綻します。マイナポータルでの離職票電子受取(会社が対応していれば 2025 年 1 月から利用可能)が使えるかを、退職前に総務へ確認しておくと安全です。

受給期間中の求職活動義務 — 基本手当を最後まで受け取るには、4 週ごとの認定日への出頭と求職活動実績 2 回以上が必要です。「制度上もらえるはず」と当てにしていても、実際に動く意思がないと、認定不支給で日数だけが消えていきます。

健康状態 — 65 歳前後は体調を崩しやすい時期でもあります。求職活動どころではなくなった場合に備えて、受給期間延長制度(病気・けが等で 30 日以上働けないときに最大 4 年まで延長)の存在も頭に入れておくと、無理な前倒し退職を避けられます。

あなたの最適退職時期を試算

賃金・被保険者期間・年齢を入れると、64 歳退職時と 65 歳退職時の基本手当・高年齢求職者給付金がそれぞれ試算できます。

シミュレーターで自分のケースを計算する →

出典・参考

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